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塗説録

愁いを天上に寄せ、憂いを地下に埋めん。

七殺碑
天生萬物以養人 世人猶怨天不仁
不知蝗蠹遍天下 苦盡蒼生盡王臣
人之生矣有貴賤 貴人長為天恩眷
人生富貴總由天 草民之窮由天譴
忽有狂徒夜磨刀 帝星飄搖熒惑高
翻天覆地從今始 殺人何須惜手勞
不忠之人殺
不孝之人殺
不仁之人殺
不義之人殺
不禮不智不信人 大西王曰殺殺殺
我生不為逐鹿來 都門懶築黃金台
狀元百官都如狗 總是刀下觳觫材
傳令麾下四王子 破城不須封刀匕
山頭代天樹此碑 逆天之人立死跪亦死

天は万物(よろづ)を生みて以ちて人を養ふも、世の人は猶ほ天の不仁なるを怨みたらん。
知らざらんや蝗は蠹きて天下を遍くし、苦しみの蒼生に盡くさるるは王臣に盡くを。
人の生くるや貴賤有り、貴人(たふとき)は長じて天の恩眷(めぐみ)を為す。
人生の富貴は總べて天に由り、草民の窮しみは天譴に由る。
忽ち狂徒の夜に刀を磨く有らば、帝星は飄搖して熒惑高し。
天に翻り地を覆ひて今從り始めん、人を殺して何ぞ須く手の勞を措かべけんや。
不忠の人、殺すべし。
不孝の人、殺すべし。
不仁の人、殺すべし。
不義の人、殺すべし。
不禮不智不信の人、大西王曰く殺せ殺せ殺せ。
我の生まるるが為は鹿を逐ひて來たるにも、都門の黃金台を築くこと懶みするにもあらじ。
狀元百官都も狗の如し、總べて是の刀の下には觳觫の材。
傳へて麾下の四王子に令(しら)せん、城を破らば須ちて刀匕を封ずるなかれ。
山頭は天樹を此の碑に代え、天に逆するが人は立ちても死すべし、跪きても亦た死しすべし。

天は万物を生みたまうことで人を養いたまうも、世の人はまだ天が不仁であると怨む。
知らんのか? 蝗が天下のすべてを食い荒らしている。苦しみが蒼生に尽くされるのは、すべて王と臣下のせいなのだと。
人の生まれには貴賤があり、貴人は長じて天の恩恵を為し、
人の生まれの富貴はすべて天に由来し、草民の窮しみも天罰による。
たちまち夜に刀を磨く狂徒が現れ、帝星が風に揺られて熒惑は高らかに輝く。
さあ、天に翻り地を覆う今こそ始めようではないか! 人を殺す手を休めることはない。
不忠の人、殺すべし!
不孝の人、殺すべし!
不仁の人、殺すべし!
不義の人、殺すべし!
不礼不智不信の人について大西王はいう。殺せ! 殺せ! 殺せ!
私が生まれたのは鹿を追って来る(皇帝になる)ためではない。都門に黄金の台を築いて頼みとするためでもない。
状元(科挙の首席合格者)も百官もすべてまとめて狗のようなもの。すべてこの刀の下には死を恐れて震える食材に過ぎぬ。
麾下の四王子に伝達しよう。「城を破ってからも斬殺することに遠慮はいらん。」
山頭の天樹をこの碑と取り換えよ。逆天の者どもよ、立つ者は死すべし! 跪く者も死すべし!


 中華邪気眼の定番中の定番である張献忠! 『屠蜀』と呼ばれる大虐殺によって四川の当時の人口は310万人から2万人弱まで減少したという。この詩文はdiscordでもらったもので張献忠のものとして中国のネットに上げられていたものらしいけど、それ以外にソースがない。なんだそりゃ。とりあえずノリで書き下しつつ訳してみた。いやー、10代後半から20代前半の自分のテンションを文字化したような感じで自分のことじゃないのに読んでて恥ずかしい……。デスメタルかよ。

 ちなみに七殺碑は以下の方が有名。

天生萬物與人
人無一物與天
殺殺殺殺殺殺

天は萬物(よろづ)を生みて人に與ふも
人は一物も天に與ふこと無し
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

天は万物を生じて人に与えたが、
人は一物たりとも天に与えていない。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

 こちらは非常に有名で、ネット上のものじゃなくて前近代から存在する伝承。私もTwitterを始めた当初にも言及していた。ただし実際にこのように記された石碑が存在したかというと怪しいらしい。

 この検証も前近代には既に為されており、実際に張献忠が建立した石碑は『聖諭碑』といい、以下のような内容だったとか。

天生萬物與人 人無一物與天 鬼神明明 自思自量

天は萬物を生みて人に與へり 人は一物も天に與ふこと無し 鬼神(かみ)は明明たり 自ら思ひ自ら量るべし

天は万物を生じて人に与えたのに、 人は一物たりとも天に与えていない。 鬼神は明らかに存在しているのだから、 自らによって思索し、自らによって考えよ

 というわけで、天と鬼神への篤い信仰を通じて人間の自立を勧める内容。あれ? いいこと言ってんじゃん。初めの二句が七殺碑と伝承と同じであり、後の張献忠の暴虐を受けて、これをオマージュして伝説が出来上がったのかもしれない。

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