【現代語訳】
大道は平坦なものなのに、
身近なものだと見る者は少ない。
意のままに任せたところで間違いにはならないのに。
物に合わせたところで正しいことにはならないのに。古来から続くとぐろを巻いた、
鎖のようにぐちゃぐちゃになった、
あらゆる思慮はなんのため?
本当に大事なことは自分にある。さあ心配事なんて天の上に投げ飛ばしてしまえ。
憂鬱なんて地下に埋めてしまえ。
権威ある古典に反逆し尽くして、
風流な文化なんて滅ぼしてしまえ。いろんな学者が小難しいことばかりを言い合う。
火で焼き尽くされてしまえばいい。
志を山の仙境の向こうまで高め、
心を海の向こうまで遊ばせれば、原初の存在は舟となり、
微かなる風が舵となる。
太初の清浄をぐるりとめぐって飛び立とう。
意のままに美しくなれるのだから。【漢文】
大道雖夷 見幾者寡
任意無非 適物無可
古來繞繞 委曲如瑣
百慮何為 至要在我
寄愁天上 埋憂地下
叛散五經 滅棄風雅
百家雜碎 請用從火
抗志山栖 游心海左
元氣為舟 微風為柂
敖翔太清 縱意容冶【書き下し文】
大いなる道は夷(たひらぎ)たると雖も
幾(ちか)しと見る者は寡し
意に任すに非は無し
物に適ふこと可なる無し古來より繞繞(ぐるぐる)とし
委曲(こまごま)すること瑣(くさり)の如し
百の慮(はかりごと)も何の為ぞ
至(まこと)の要(かなめ)は我に在り愁(うれひ)を天の上に寄せ
憂(うれひ)を地の下に埋めん
叛きて五經を散らし
滅ぼして風雅を棄てん百家は雜碎(まばら)なり
用ちて火に從(よ)らんことを請ふ
志を山の栖(ねぐら)に抗(かか)げ
心を海の左に游ばせしめ元氣は舟と為り
微かなる風は柂(かじ)と為らん
敖(めぐ)りて太いなる清きに翔び
意の縱(まま)に容冶(うるは)しく
後漢末の儒者である仲長統の漢詩。袁紹に仕えた後、曹操に帰順した。
5年にわたってブログのサブタイトル欄にずーっと掲載している『愁いを天上に寄せ、憂いを地下に埋めん。』はこれが元ネタ。いやー、こんなの私が好きに決まっているっしょ。私の好みを知っている人ならわかるはず。
私にしては珍しく現代語訳を初読者にとって徹底的にわかりやすくしている。「五經(儒教における最も根幹の経典)」を「権威ある古典」、「百家」を「いろんな学者」と意訳する等して予備知識なしで読める……はず。「大道」も意訳してもよかったんだけど、まあいいや。
こんなふうに古典の権威に反逆する詩を唱えながら仲長統は古典の知識になると興奮して激論したとか。うーん、あらゆる面で超共感しちゃうー。前にTruthSocialの人とオフ会した時に一方的にガーーーーーーーーーーーッ! っと中国古典の話をしたので、なんかやべーやつみたいな噂が立ったらしい。むべなるかな。
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