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塗説録

愁いを天上に寄せ、憂いを地下に埋めん。

刺客列伝山上徹也篇を翻訳

 中国におけるネット上の悪ふざけである。安倍が山上に銃殺された直後、実は私もこういうのを漢作文しようとしていたのだけどテーマを安倍の方にしてしまったため、内容が茫漠すぎて取りやめてしまった。山上をテーマにすればよかったんだよね。そらそうだ。


 刺客列伝-山上徹也篇

≪漢文≫

 夫山上者、字徹也、瀛洲奈良人也、幼喪父、其祖行商、家富、乃奉之。然美况短也、出数年、祖宗、其母難継、遂売祖産以度日。


 徹也性温和少言、勤于学業、友皆以敬之。欲求学、然其母无以資之、盖因其母湎于統一邪教、其祖産尽皆用之。徹也无以為学、遂入海上自衛隊、習槍械之構。其兄病、无資以治、乃自縊。親皆逝、徹也流于郷野、働碌以度日。


 安倍者、字晋三、瀛洲之前相国也、乃公卿大家、承其父業、四拜瀛之相国、今雖退隠、其威尚存。坊有流言、統一之邪教、乃以資惠与安倍、以受其庇也。徹也聞之、乃帰怨与安倍、欲以除之而后快。


 公暦二零二二年、安倍話学于奈良、听者寥寥、其衛亦怠。徹也乃持私械、着便衣以近之、護衛者衆、尚无人察。俄而槍声起、衆皆惘、不知何故、安倍亦回首顧之。徹也持械、復讐之、中其膺、流血及鞋、衆皆惧、欲尋医以救之、然未果、安倍薨。


 今安倍亡故、其領国怨之已久、聞其訊、衆皆賛之、乃称山上徹也民族之英雄也、欲封其以華族、並其以无罪。夫有法外狂徒、持双槍、聞名于英雄連盟、遂以其名以誉之、号曰、日服第一男槍也。


≪書き下し文≫

 夫れ山上なる者、字(あざな)は徹也(てつや)、瀛洲(やまとのくに)の奈良(なら)の人なり。幼くして父を喪ふも、其の祖(おや)は行商(あきなひ)し、家は富み、乃ち之れを奉(やしな)ふ。然れども美况(よきさま)は短きなり。数年(いくとし)を出(のち)にし、祖宗(おほもと)、其の母は継ぎ難く、遂に祖(おや)の産(たから)を売り、以ちて日を度(わた)る。


 徹也の性(ひととなり)は温和(おだやか)にして言(ことば)は少なく、学業に勤め、友は皆が以ちて之れを敬ふ。学を求めむと欲(おも)ふも、然れども其の母に以ちて之れに資(あた)うこと无(な)し、盖し其の母の統一邪教に湎(ふけ)り、其の祖(おや)の産(たから)の尽く皆之れに用うるに因ればなり。徹也は以ちて学を為すこと无(な)く、遂に海上自衛隊に入り、槍械(つつ)の構へを習ふ。其の兄は病み、以ちて治るに資(あづか)ること无(な)く、乃ち自ら縊(くび)りたり。親は皆逝き、徹也は郷(くに)の野に流れ、働き碌(ふち)して以ちて日を度りたり。


 安倍なる者、字(あざな)は晋三(しんざう)、瀛洲(やまとのくに)の前の相国なり。乃ち公卿の大家、其の父の業(わざ)を承(う)け、四(よたび)に瀛(やまと)の相国を拜(さず)かり、今は退き隠ると雖も、其の威(ちから)は尚ほ存(あ)らむ。坊(ちまた)に流言(うわさ)有り、統一の邪教、乃ち資惠(たから)を以ちて安倍に与え、以ちて其の庇(まもり)を受くるなり、と。徹也は之れを聞き、乃ち怨みを帰(かへ)すに安倍に与え、以ちて之れを除きて后(のち)の快(こころよし)とせむと欲(おも)ふ。


 公暦の二零二二年、安倍は奈良に于(お)いて話学するも、听(き)く者は寥寥とし、其の衛(まもり)も亦た怠けたり。徹也は乃ち私(わたくし)に械(つつ)を持ち、便衣を着て以ちて之れに近づかば、護衛(まもり)の者は衆(かずおほ)かるも、尚ほ人の察(きづ)くこと无し。俄かにして槍(つつ)の声(こへ)は起こり、衆(ひと)の皆が惘(おどろ)くも、何故(なにゆえ)をか知らず、安倍も亦た首を回して之れを顧ゆ。徹也は械を持ち、復たしても之れに讐(あた)さば、其の膺(むね)に中(あた)り、流るる血は鞋(くつ)に及び、衆(ひと)は皆が惧(おそ)れ、医を尋ねて以ちて之れを救はむと欲(おも)ひたるも、然れども未だ果たすことあらずして安倍は薨(みまか)る。


 今は安倍の亡き故、其の領(をさ)むる国は之れを怨みて已に久し、其の訊(しらせ)を聞かば、衆(ひと)は皆が之れを賛(たた)へ、乃ち山上徹也を民族(たむやから)の英雄(ますらを)と称(よ)ぶや、其れを封(あた)ふるに華(もろこし)の族(やから)を以ちてし、並びに其れ以ちて罪无しとせむと欲(おも)ひたり。夫れ法(のり)の外の狂(きちがひ)の徒(ひと)有り、双(ふた)つの槍(つつ)を持たば、名をば英雄連盟(ますらをのつらむちかひ)に聞き、遂に其の名を以ちて之れを誉むるに、号(よびな)にして曰く、日服第一男槍(ひのもとのひとのつつのますらを)と以ちてするなり。


≪現代語訳≫

 さて、山上という人物は、字(あざな)を徹也(てつや)といい、瀛洲の奈良の人である。幼くして父を喪ったが、彼の祖父は商売に成功して家が裕福だったので、彼を養うことにした。ところがよき日々は長くは続かなかった。数年ほど後になると、祖宗を彼の母は受け継ぐことができず、遂に祖父の財産を売り払うことで日を送ることになった。


 徹也の性格は温和であり、口数は少なかったが、学業に勤めていたので、友人は皆がそのことに敬意を持っていた。学業を修めたいと思っていたが、彼の母親はそのことにお金を使おうとはしなかった。おそらく彼の母が統一邪教に耽溺し、彼の祖父の財産をすべてそれに尽く用いたことが原因であろう。そのため徹也は学問を修めることができず、遂に海上自衛隊に入り、銃の構造を習得した。彼の兄は病み、その後も治ることはなく、そのまま自ら首を吊って死んだ。親族は皆が逝去し、徹也は故郷の田舎に流れ、働いて僅かな給料を得て日を送っていた。


 安倍という人物は、字(あざな)を晋三といい、瀛洲の前の相国である。元は公卿の大家であり、彼は父親の地盤を継承し、四度にわたって瀛洲の相国の地位を授かり、現在は位を退き第一線からは身を引いたが、その威光はまだ健在であった。街中に次のような流言が立った。「統一の邪教は、どうやら安倍に融資することで、彼から庇護を受けているらしい。」これを聞いた徹也は、そこで怨みを安倍に向け、彼を除きたくて堪らなくなった。


 公暦の2022年のこと、安倍は奈良で遊説していたが、聴衆の数は物寂しく、彼の護衛も怠けていた。徹也はそこでひそかに銃を隠し持ち、普段着を身につけてそこに接近した。護衛の者は数ばかりは多かったが、それでも誰も気づくことはなかった。突然、銃声が鳴り響き、人々は皆が呆気に取られるばかりで、なにが起こったのかまったく理解できず、安倍も同じく首を回してそちらを振り向いた。徹也は銃を持ち、またしてもそれに讐(むく)いると、彼の胸に命中し、流血が靴を濡らした。人々は皆が驚いて恐怖し、医者を尋ねて彼を救おうとしたが、果たされることなく安倍は薨去した。


 現在は安倍の亡き故、彼の領めていた国の人々は彼を怨んで日は長かったことから、その知らせを聞いた人々は皆がそのことを讃え、山上徹也を民族の英雄と称するようになり、彼を中華民族の一員に封じるとともに、彼を無罪にせよと主張した。ところで、英雄連盟(リーグオブレジェンド)で名が知られていた双(ふた)つの銃を持つ法外の狂徒は、遂に彼の名をもってそれを褒誉され、『日本鯖第一の銃士』と号(よびな)されるようになった。

 

≪注釈≫

瀛洲……東海の向こうにあって仙人が住まうという伝説の島。転じて日本を指す。
相国……漢王朝における行政の長。人臣における最高位であり、立場としては皇帝のすぐ下の位である。ここでは日本国の内閣総理大臣を指し、おそらく君主制を擁する国家の首相であるが故であろう。
英雄連盟、リーグオブレジェンド……中国で人気のネットゲーム、らしい。
日服第一男槍(ひのもとのひとのつつのますらを)、日本鯖第一の銃士……日服は日本のサーバーのことを指す中国のネットスラング。上記のネットゲーム発祥の語だからであろう。鯖は日本におけるサーバーを指すネットスラング。


 内輪ネタ臭さがあるため、そのへんはあまり好きではない。ネトゲの話とかされてもなあ……。そこで山上が話題になった結果、ノリでこういう文章が出てきたのかも知らんけど、たとえば日本でこういうお遊びをしたとして、最後に嫌儲の話とか挿入されるとなんか違う感が出ない? それと事実誤認も目につく。

 ところで、私は現代中国語を知らないのだけど、本文は割とそういった表現と思わしき語がいくつか見られる。それが結構興味深かった。
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