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塗説録

愁いを天上に寄せ、憂いを地下に埋めん。

フェミニズム漢籍を少しずつ訳している。

漢籍の利用について - 岡山県立図書館
「漢籍」とは、諸説ありますが、京都大学人文科学研究所では、中国人が中国語を用いて著した書物のうち、おおむね清王朝以前の人物が著した書物を「漢籍」とみなしています。

 私はこの定義にまったく賛同しない。この当時に厳格な国籍は存在しない。「日本人」や「中国人」といった言い方を前近代の人に便宜上は言うこともあっても、それはあくまで近代的視点から仮定として導き出すものである。たとえば唐の時代に王朝で用いられた公文書は漢籍の定義に該当すると思われるが、外国人による科挙合格者が著したものは漢籍に該当するのか否か。科挙に合格した朝鮮の儒者である崔致遠が中国官僚として記した公文書を多く含みつつ朝鮮に帰国した後の文章も含めて纏めた文集『桂苑筆耕集』は漢籍か否か。インド地域の貴族を父に持ち亀茲国から後秦に渡来した仏僧の鳩摩羅什は中国人か否か。鳩摩羅什の訳した仏典が漢籍でなく、中国出身の三蔵法師が訳した仏典は漢籍になるのか。定義上に曖昧なグレーゾーンが存在し得るのは必然だとしても、あまりに漏れが大きすぎる。定義から「中国人」「中国」は外して『おおむね清王朝以前の人物が前近代の文語体によって著した書物』と定義すべきだと私は考えるし、それ故に大越史記全書や三国史記などのベトナムや朝鮮において現地人に記された漢文書籍をすべて私は漢籍としている。

 さて、それはそれとして、である。上掲の京都大学人文科学研究所による定義に基づいても、やはり清王朝が存在した1907年に何殷震によって著された『女子解放問題』は間違いなく漢籍である。フェミニズム漢籍! なんとよい響きなのか。

 というわけで以下に冒頭だけ訳を載せる。

【漢文】
 數千年之世界、人治之世界也、階級制度之世界也、故世界為男子專有之世界。今欲矯其弊、必盡廢人治、實行人類平等、使世界為男女共有之世界。欲達此目的、必自女子解放始。

【書き下し文】
  數千年 いくちとし 世界 、人の治むるが 世界 なり。 階級 くらひ 制度 とりきめ 世界 なり。故に 世界 男子 をのこ の專ら有ちたるが 世界 と為らむ。今ぞ其の あしき ただ し、必ず ことごと くの人の治むるを み、 まこと 人類 ひと 平等 ひとしき を行ひ、 世界 使 男女 をめ の共に有ちたるが 世界 らしめむことを欲す。此の 目的 ねらひ とど かむと おも へば、必ずや女子の解き放つ り始まらむ。

【現代語訳】
 ここ数千年の世界は、人治の世界であり、階級制度の世界であった。だから世界は男子が占有する世界だったのである。今こそ、その弊害を矯正し、必ずやことごとく人治を廃絶し、真実の人類平等を行い、世界を男女共有の世界にしたいのだ。 この目的を達成しようと思えば、女子の解放から始まるのは必然である。

 ここまでが前置き的な部分。私はもっと先まで読んでいるのだけど、ふだん世間にて見る程度の社会問題に関する議論は、この論文において既にかなりの割合で出尽くしていると思う。続きはそのうち。

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