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塗説録

愁いを天上に寄せ、憂いを地下に埋めん。

ホームページの漢籍置場に聖経のコーナーを設置
焚巣館 -聖経-
https://wjn782.garyoutensei.com/kanseki/seikyou/main.html

 ひさびさのブログとホームページの更新。過去にブログにも掲載している漢訳聖書の訳をホームページに掲載。やー、すっかり操作を忘れてなかなか勝手がわかんない。今回はウォーミングアップのつもり。これから更新を増やす……はず。

 漢籍翻訳は中国思想にとどまらず、初期から朝鮮の歴史書を訳し、仏典に続いて聖書まで翻訳に着手、もはや思想の大陸横断である。

 現在は漢籍イスラム文書の『清真大学』の翻訳を画策中。これはネット上にデジタル入力のものがなかったのだけど、影印のPDFは存在するため、今はAIで読み込めば電子翻刻は圧倒的に手間が省けるため、これを使ってやろうかと画策中。とはいえ、それでも時間はかなりかかるため、仕事もあるからいつになるかはわからない。

 さて、今回は聖書の第一である創世記の冒頭。神が6日間で天地を創造したという神話から。ここでの神は『上帝』と名付く。God(ヘブライ語ではエロヒム/אֱלֹהִים)の訳は『神』か『上帝』か、これは聖書を漢訳するにあたってプロテスタント宣教師たちが19世紀から議論を重ねた問題で、実は定まった決着がついていない。イギリス系が上帝でアメリカ系が神だとしたと聞いたこともあるけど、本当か? そんな風に国で派閥が綺麗に分かれているものだろうか、よくわからない。

 ちなみに17世紀から18世紀にかけてもカソリックにおいて『天主』『上帝』『天』のいずれとするかで論争があり、これは『天主』に定まった。実は日本でもカソリックでは天主という呼称が主流であった。ところが近代に入ってからプロテスタントが流入し、これに伴って『神』の呼称が入る。一般的にはそちらが主流となり、それ以降しばらく日本のカソリックは二重状態に置かれた。以後、公式にカソリックでも『神』の語が認められたのは20世紀後半である。

 私は過去に聖書の創世記をすべて読んでいる……というか聴いている。というのも、聖書には過去の豊富な著作権フリーの多言語翻訳を数多く収録したアプリが複数存在し、これらをすべて音読してくれるのだ。なので私は一時期ジョギングをしながらずっとこれを聴いていた。膨大な聖書の内容が「ながら」ですべて通読、というか、通聴? できてしまうのである。

 しかし、ここが翻訳という作業のよいところで、つぶさに単語を確認することで、新たな発見が大いにある。まことに翻訳とは精読を10回するだけの効果があり、非常におすすめの趣味だ。お金もかからない。ここで上帝(神)は自らのことを「我儕」と称している。これは「わなみ」と訓じ、「我」の複数形である。

【漢文】
26上帝曰、宜造人、其像象我儕、以治海魚、飛鳥、六畜、昆蟲、亦以治理乎地。

【書き下し文】
26上帝 かみ のりたまは く、宜しく人を造り、其の かたち 我儕 わなみ かたど り、以ちて わたつみ の魚、飛ぶ鳥、六つの なまぐさ 昆蟲 むし を治め、亦た以ちて地を治理 をさ むるべし、と。

【現代語訳】
26上帝はおっしゃられた。「人を創造し、その姿は我々 かたど ろうではないか。そして海の魚、飛ぶ鳥、六畜、昆虫を統治し、同じように地を統治するがよい。」

 んー? どゆこと? かつて音声で聞いてきたときにはなんとなくスルーしていたけど、翻訳をしてみるとこういう点が気になってくる。で、調べてみると実は日本語版の共同新訳でも、この部分が「我々」とされており、英語版の共同新訳やイギリスのキングジェームズ版でも「us」「our」と表記されている。

神は言われた。 「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう。」創世記‬ ‭1‬:‭26‬ 新共同訳‬
https://bible.com/bible/1819/gen.1.26.%E6%96%B0%E5%85%B1%E5%90%8C%E8%A8%B3

Then God said, “Let us make mankind in our image, in our likeness, so that they may rule over the fish in the sea and the birds in the sky, over the livestock and all the wild animals, and over all the creatures that move along the ground.”」 ‭‭Genesis‬ ‭1‬:‭26‬ ‭NIV‬‬
https://bible.com/bible/111/gen.1.26.NIV

And God said, Let us make man in our image, after our likeness: and let them have dominion over the fish of the sea, and over the fowl of the air, and over the cattle, and over all the earth, and over every creeping thing that creepeth upon the earth.」 ‭‭Genesis‬ ‭1‬:‭26‬ ‭KJV‬‬
https://bible.com/bible/1/gen.1.26.KJV

 これはいったいどういうことか。ちなみに原語ではどうなっているかというと……まあ聖書の原語というのも同定が難しいのだけど、古代ヘブライ語、古代ギリシャ語、ラテン語の聖書において当該部は次のようになっているようだ。

タナハ(ユダヤ原典)
古代ヘブライ語:וַיֹּאמֶר אֱלֹהִים נַעֲשֶׂה אָדָם בְּצַלְמֵנוּ כִּדְמוּתֵנוּ

七十人訳版(初の翻訳聖書)
古代ギリシャ語:ἡμετέραν(hēmeteran) καὶ εἶπεν ὁ Θεός· ποιήσωμεν ἄνθρωπον κατ’ εἰκόνα ἡμετέραν καὶ καθ’ ὁμοίωσιν

ウルガーター(カソリック教会初の統一聖書)
ラテン語:Et ait: Faciamus hominem ad imaginem et similitudinem nostram

 ……正直さっぱりなにがなんだかわからないのだけど、どうやら「我々」を意味する語が含まれているらしい。deepLにぶち込んだところ、

古代ヘブライ語:神は言われた、「われわれの像、われわれに似た者を造ろう」。

古代ギリシャ語:神は言われた。「われわれの像と似姿とをもって人を造ろう」

ラテン語:そして彼は言った、「われわれの像に、われわれに似せて、人を造ろう」。

と、それぞれ訳されたので、やはりすべて「我々」なのだろう。たぶん。

 さて、こんな神の一人称が複数形という重大な、わかりやすい疑問点に過去の億兆の聖書読者が気付かぬはずがなく、複数のキリスト教系の教団が大小問わず自らこの問題に関する回答を提示している。

人間の創造 - 横浜指路教会
https://yokohamashiloh.or.jp/gen-01-5/

エロヒム神様、父なる神様と母なる神様 神様の教会 世界福音宣教協会
https://japanwmscog.org/%E4%BF%A1%E4%BB%B0/%E6%AF%8D%E3%81%AA%E3%82%8B%E7%A5%9E%E6%A7%98/%E3%82%A8%E3%83%AD%E3%83%92%E3%83%A0%E7%A5%9E%E6%A7%98/

神 — ものみの塔 オンライン・ライブラリー
https://wol.jw.org/ja/wol/d/r7/lp-j/1200001729

 複数形の理由として挙げられるのは、①ヘブライ語における上帝(神、天主)であるエロヒムが複数形の語だから。②天使たちに呼びかけているから。③偉い人が一人称を複数形で言う文化があったから。④父、子、聖霊の三位一体説を示しているから。⑤全知全能の上帝は一にして多だから。……等の説があり、複数にまたがって解釈される、っぽい。

 さて、これらの説についてはさておき、この複数人であることを

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